民主党 岩國哲人議員の質疑抜粋

第166号国会
衆議院決算行政監視委員会
第2号 平成19年4月10日(火曜日)
 出席委員
   委員長 仙谷 由人君
   理事 鴨下 一郎君 理事 北村 誠吾君
   理事 柴山 昌彦君 理事 渡海紀三朗君
   理事 平田 耕一君 理事 古川 元久君
   理事 松本 大輔君 理事 古屋 範子君
      赤池 誠章君    新井 悦二君
      浮島 敏男君    江藤  拓君
      佐田玄一郎君    坂井  学君
      桜井 郁三君    杉村 太蔵君
      鈴木 馨祐君    玉沢徳一郎君
      冨岡  勉君    西本 勝子君
      福岡 資麿君    藤井 勇治君
      古屋 圭司君    保坂  武君
      茂木 敏充君    矢野 隆司君
      安井潤一郎君    赤松 広隆君
      岩國 哲人君    吉良 州司君
      小宮山泰子君    武正 公一君
      鉢呂 吉雄君    松本  龍君
      三谷 光男君    漆原 良夫君
      遠藤 乙彦君    鈴木 宗男君

    …………………………………
   政府参考人
   (法務省民事局長)    寺田 逸郎君
   政府参考人
   (法務省人権擁護局長)  富田 善範君

○岩國委員 次に、いわゆる二重国籍といいますか重国籍についてお伺いしたいと思います。

 これは、担当は法務省、おいでいただいていると思いますけれども、フランス、スイスに在住しておられる日本人の方からのいろいろな請願、陳情が相次いで来ていると思います。

 最近は、これは日本に限らず世界の流れですけれども、留学生がどんどん外国へ出かける。留学した結果として、あるいは海外勤務の結果として、あるいは企業そのものが海外へ移転した結果として、こういう国際結婚というものがふえ、また外国でお生まれになる赤ちゃんも多くなってきています。

 そこで、国籍という、ややこしい、しかし一人一人にとっては大切な問題が激増しているわけですよ。この問題について、日本は、そうした日本国籍のほかに外国の国籍を持つという方向に緩和しつつあるのか、逆に、外国の国籍は持たせないという、いわゆる純血主義というんですか、方向に動いているのか、どちらの方で行政は対応しておられるのか、お聞かせいただけませんか。

    〔古川(元)委員長代理退席、委員長着席〕

○寺田政府参考人 おっしゃるとおり、非常に国際的な、人的な交流というのが盛んになっております。国際結婚で見ますと、もう毎年、増加の傾向にございまして、十年前に比べますと何倍というようなオーダーでこれがふえてきているわけでございます。

 私どもの関係で申しますと、国籍法というのは、常にそれぞれの国が国籍を与えるという形で、専権事項で決めておりますので、当然のことながら、二重国籍ということが今おっしゃるとおり起こっているわけでございます。

 しかし、私ども日本の政策といたしましては、かつて国籍法の改正をした際に、それまでは、父が日本人の子供が日本人であるということになっていたわけでございますけれども、父または母が日本人である子が日本人であるという、父母両系主義と申しますが、そういう主義に変換した際に、二重国籍が非常にふえるだろうと予想されたものでございますので、日本といたしましては、これをできるだけ防止したいということで、国籍の選択の制度というのを設けまして、二十になりますと、二十二歳までの間に、二重国籍の方はどちらかの国籍をお選びいただくような仕組みを、その際に国籍法の中に組み込んだわけでございます。

 もともと、帰化等の要件を見ましても、日本の国籍を取得する、すなわちこれが帰化でございますが、する際には、外国の国籍を離脱していただくというのを原則にしておりますので、我が国の国籍法としてはかなり徹底した重国籍排除の考え方であろうと言えると思います。

○岩國委員 日本という国は、私も海外から日本を随分長いこと見ておりましたけれども、いわゆる資源に乏しい国です。石油もない、石炭もない、鉄鉱石も少ない。そういう資源の乏しい日本で、たった一つの資源は人間という資源だ、私はそう思い続けてきました。これからの日本の国際化というときに、どこかの国に資源を売ってあげるというようなことはとてもできません。人間だけが日本の財産ではないか。

 そういう考えに立脚すれば、海外で活躍されていらっしゃる日本人の方が、そういう国籍のしがらみとか、あるいは日本の国籍法ということが、海外で生活し、あるいは海外で子供をお育てになるときに、それがしがらみになって、マイナスになるようではいけない。海外へ出かけていく人にはいろいろな苦労もあります。その御苦労を少しでも軽減し、そして家族が幸せに暮らせるように、そして、御当人だけではなくて、そのお子さんも含めて、相手の奥さんも含めて、日本の国籍法というものがよその国と比較して非常におくれているということが、海外における、日本の顔をし、日本のために、そして会社のために努力していらっしゃる人たちの障害や負担になってはならないと私は思うんです。その思いは寺田局長も恐らく同じ思いであられると思いますけれども。

 そこで、資料3としてお配りしました、これを見てください。これは「諸外国における重国籍に関する法制度」。これを見ますと、日本のところには丸印、イギリスはペケ印、カナダもイタリアもフランスもロシアもみんなペケ印。丸とペケというこの記号は、丸というのは普通はいいことをしたときに丸をつけるものなんですね。これはちょっと記号のつけ方が逆じゃありませんか。

 これは、重国籍を認めてほしいという人に対してどういう対応をしておるかというときに、私はこの印を見たとき、ああ、日本は丸だ、ところが文字を読んでみて、要するに、これは非常に厳しいというところに丸がついておって、そしてヨーロッパ諸国のように、お互いに国境が接近し、そういう交流が非常に数が多いところにおいては重国籍を認めていこう。重国籍を認めているところにペケ印がついているんですね。それを認めないよというところに丸印がついている。こういう理解でよろしいんですか。私の理解がもし間違っていれば、この記号のつけ方は。そして、この記号のつけ方は、よその国も同じような記号のつけ方をしているのかどうか、同じような観点から。お答えください。

○寺田政府参考人 これは私どもで重国籍の法制度を説明する際に、外国の国籍を取った場合に、その国の国籍を失うかどうかということを基準に考えておりますので、失うものが丸、つまりこれは二重国籍を認めないものが丸、失わない、つまり二重国籍も容認するというのがバツというふうになっておりまして、これはたまたま、当然喪失をするかどうかということを基準に考えているものでこういうことになってございますので、当然のことながら、常に二重国籍を認めるかどうかということでマル・バツが一律に決まっているものではございません。

○岩國委員 これは実際に国民の立場、あるいはこういうことについていろいろと悩んでいらっしゃる立場の方からいえば、この丸印とペケ印は全く私は逆だと思いますよ、赤信号と青信号が。

 そして、それは喪失するという表現をされましたけれども、喪失させるわけでしょう、法によって。私は別に失いたくないんですと窓口でおっしゃったら、失わなくていいのか。そうではなくて、喪失させるんでしょう、強制的に。私は日本国籍を取得したい、しかし、今フランスに住んでいるから、フランス国籍のほかに日本国籍もといった場合に、あなたは日本国籍を取ったらフランス国籍は持ってはいけませんよ。フランス国籍を喪失するということは、言葉をかえれば、きついんですけれども、もう一つの国籍を奪い取るということでしょう、国が。奪われるということですよ、窓口にあらわれた人から見れば。

 そういう非常にきついというか、そういう法制度に対して、これはいろいろな各国に住んでいらっしゃる日本人の方からいろいろな請願とか陳情というのは毎年のように来ているんじゃないかと思いますけれども、この十年間でどれぐらいの件数、どれぐらいの人数の方が実際に国に対して異議というか陳情をされたのか、簡単な数字で結構ですから、お答えいただけませんか。特にどの国からそういうことが非常に多くなってきているのかもあわせてお答えください。

○寺田政府参考人 まず、国でございますけれども、これは二重国籍を比較的認めやすいというスタンスをとっておられる国に国籍を置いておられる方々、すなわちフランスでございますとかそういうヨーロッパの国、あるいはカナダ、オーストリア、そういうようなところが中心でございます。

 人数でございますけれども、これは団体の請願も来ておりますので、確定的には申し上げられませんけれども、請願そのものとしては、ここ三年間に二十ぐらいの規模で来ておりまして、私ども推測するところでは、トータルとして、関係者は約一万人ぐらいの方が請願をなさったというように理解をいたしております。

○岩國委員 それでは、今現在、日本に居住している人の中に重国籍を持っていらっしゃる方はどれぐらいあると思っておられるか、それが一つ。

 それから、先般、四月四日の新聞で私も知りましたけれども、高さんとおっしゃる御家族、ある国に拉致された。ある国というか、報道では北朝鮮ということになっておりますけれども、拉致された。そして、その高さんは二重国籍の方だったんですか、それとも日本国籍だけだったんですか、それとも北朝鮮の国籍を持っておられたのか、その三つの中のどれだったのか、それをお答えいただけませんか。

○寺田政府参考人 まず、重国籍の人数でございますけれども、先ほど申しましたように、昭和五十九年に法改正がございまして、それから二重国籍ということが激増しているわけでございますけれども、私どもが推定している範囲では、現在まで約五十万人の方が日本とほかの国との重国籍をお持ちだというように理解をいたしております。ほとんど九割以上の方が、生まれたときに重国籍でいらして、それをそのままお続けになっておられる、こういうことであろうかと考えております。

 それから、先ほどの特定の問題について、どういう問い合わせがあって、どういう回答をしたかということでございますが、私どもも、この国籍についてはいろいろなお問い合わせが関係者の方からございます。関係者の、御本人あるいは代理人がおいでになった場合には、どういう国籍の関係になって、どことどことの二重国籍だということを当然のことながら前提にいろいろお話を申し上げますけれども、非常にプライバシーにわたることでございますので、関係者以外の、つまり御本人以外の方々に対しましては、基本的にはこれはどういう関係にある、どういう国籍状態にあるということは申し上げないということにいたしておりますので、恐縮でございますが、その点については差し控えさせていただきたいと思います。

○岩國委員 何度もお出かけいただいて恐縮ですけれども、この特定の事件を新聞では北朝鮮国籍と。それは、日本で生まれて日本の国籍を取得しないという意思表示をされたから一つの国籍だけを持っておられたのか。

 また、こういう特定の国に限らず、二重国籍、日本以外の国籍を持っていらっしゃる方は、一元的にどこの役所にそれはきちっと整理されているのか。

 三番目に、警察庁はそういうデータを持っているのか。外務省が持っているとは思いませんけれども、法務省にはそろっているのか、両方にあるのか、法務省にしかないのか。

 そして、新聞報道では北朝鮮となっておりますけれども、これが事実でないとするならば、法務省は、各メディアに対して、事実でないことを事実であるかのごとく国民に報道することについて当然注意をされなきゃいかぬと思うんです。あのように報道されているということは、何らかの裏づけがあったのか。

 まとめて聞きます。

 そういうメディアに対して、問い合わせがあったときに、法務省にきちっとした重国籍に関する資料、名簿があるとするならば、外部からの問い合わせに対してはお答えになっておるのかどうか。外部、それは他の官庁あるいは官房長官からの電話だったら、それは四月四日の十一時に答えましたとか、警察から、これも答えます。メディア、答えません。それでは、親族、自分の父親が二重国籍かどうか、自分の父親の国籍を実のお子さんが問い合わされた場合もそれは拒否されるのか、ちゃんとその情報は提供されるのか。親子、親族の間での問い合わせに対して、日本の国籍に関する情報提供というのはどのようになっているのか。それをお答えいただけませんか。

○寺田政府参考人 これは、先ほども推測では申し上げたわけでございますけれども、基本的には、日本国籍があるかどうかということは戸籍の記載によって把握できるわけでございますし、戸籍の副本というのは法務局にも保管してございますので、市町村あるいは法務局においては、日本国籍を有している者かどうかは当然のことながらわかるわけでございます。

 その中には、生まれたときに、相手方の、妻が日本人であれば、国際結婚であれば外国人のだんなさんということになるわけでございますけれども、その国籍法によってそこの国の国籍も取得するかどうかも、これは法務局では外国法の調査によってわかる仕組みになってございますので、基本的に、ある者が日本国籍とどちらかの重国籍を有するかどうかということは、法務局では把握できる状態にあるわけでございます。

 これをどう関係者の方に情報開示するかということでございますけれども、先ほど申しましたように、御本人には当然のことながらこれを御説明することはしばしばございます。また、官庁の問い合わせでございますけれども、そういったものも行政目的として、当然国家公務員法の守秘義務というものがかかった状態になるわけでございますけれども、情報を提供する場合もございます。

 問題は、最後におっしゃいました親子兄弟でございますが、これは御本人の推測的な意思というものが明らかになっているという場合にはオープンにする場合、情報を提供する場合もございます。それ以外の方には、先ほど申しましたように、基本的に非常に高度なプライバシーに属することでございますので、報道機関を含めましてこれは情報提供しないというスタンスでこれまで対応してきているところでございます。

○岩國委員 そうした御本人がカナダの国籍を、あるいは台湾の国籍を、フィリピンの国籍を持っているということも、それは出生のときあるいは結婚のときに必ずしも適切に報告されるかどうか。あるいは、報告を忘れた場合、あるいは場合によっては隠ぺいされた場合、いろいろなケースがあり得ると思いますけれども、法務省が持っておられるデータそのものが不備なものも少しはあるのではないかと私は思います。

 その点について、時間の制約もありますから次の観点に移りますけれども、こうした国籍をもう一つ持つということは、決して差別の対象になるものではないし、かといって特別な尊敬の対象になるものでもないと私は思いますけれども、今まで入学とか就職とかそういうときに、ある別の国の国籍を持っているということをもって差別されたというような事件があったかどうか。そういう相談なりあるいは情報なりを法務省の方で持っておられるかどうか。人権尊重、人権保護という観点から、重国籍というのが日本という社会の中ではどういうふうな問題を起こしているのか、あるいは全く問題を起こさないで、重国籍を受け入れる社会的雰囲気はもう十分に雇用者の方でも学校の面でも整っているというように見ておられるかどうか。どうぞ、お答えいただけますか。

○富田政府参考人 お答えいたします。

 法務省の人権擁護機関は、差別等の人権侵害を受けた被害者からの申告を受けるなどした場合に、救済手続を開始し、所要の調査を遂げた上、適切な措置を講じているところでありますが、平成十六年から十八年までの過去三年間に、重国籍者であることを理由として就学や就職の場面において差別的取り扱いを受けたとの被害申告を受け、救済手続を開始した事案は承知しておりません。

 人権擁護上、差別する雰囲気があるかどうかというお尋ねがございましたけれども、今のところその点は、人権擁護機関では具体的には承知しておりません。ただ、一般的には、人権に関する相談につきましては、人権相談所あるいはインターネットによる受け付けシステム等、あるいは窓口を通じて、差別等の人権侵害を受けた被害者等からの相談や被害の申告を受け付けております。また、ポスターやホームページ等で、一般的には差別等の人権侵害を受けた被害者等からの訴えを積極的に呼びかけております。

 今後とも、これらの手段を通じまして、そのような差別的取り扱いの疑いのある事案に接した場合には速やかに救済手続を開始し、適切に対処していく所存でございます。

○岩國委員 最近三年間においてそういう事案は承知していないという御答弁がそのとおりであるとすれば、もう既に日本は十分そういった点においては国際社会の中で成熟した社会になりつつあるという一つの根拠になり得るのではないか、そのように私は思います。



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