第169国会(常会)陳情資料

2008年4月2日

高川 憲之
 IST請願の会代表 国際結婚を考える会海外会員
 Mixi複国籍を認めてもらうコミュニティ、日本版US-Visit法反対コミュニティ管理人

・陳情の目的

1.複国籍(重国籍)を認めて頂きたい
 ・複国籍(重国籍)容認をマニフェストへ
 ・複国籍(重国籍)容認関係の請願を参議院だけでも採択へ

2.日本版US-Visit法を廃止して頂きたい

・複国籍の容認を求める現状

複数の国籍を有している人を、重国籍者という。この「重」には多分に、個人が負担出来ないような重いイメージ、否定的なイメージがあるように感じらる。「重婚」が否定的な様に、「重国籍」も否定的に受け止められがちだ。

一方、世界を俯瞰してみると、カルロス・ゴーン氏をはじめ、国際的に活動する人々の中では重国籍であることが常識でもある。発展した社会で生活する人々は、その活動が往々にして国家を跨ぐ。その様な環境にあっては、個人にとって重国籍は重荷でも何でもなく、むしろ生活に必要な要件なのだ。

そこで、重国籍という呼び方ではなく、複国籍という呼び方を提唱したい。重国籍者は複数の国籍を持っているのだから、むしろ複国籍が自然だ。また、複数を持ち合わせるという意味には、個人にとって多様な可能性をもたらす積極性がある。「ふく」という読み方も、「福」に通じ、個人にとって好ましい呼称と言える。

日本においても国際結婚などによって生まれる子供の10人にひとりは複国籍として生まれていると法務省は推定している。また海外在留邦人の数は平成18年10月の統計で約106万4千人(外務省海外在留邦人数統計平成19年速報版)に達し、この数は増加の一方を辿っている。在留邦人の最も多い国がアメリカ合衆国でおよそ37万人。また、永住者の総数は32万8千人となっている。日本人の夫婦でもアメリカで出産すれば、子供は日本とアメリカの複国籍者となる。

日本人にとっても、複国籍は生まれてくる子供の10人にひとりであり、そして国民の100人にひとりは外国籍と何らかの関係を持つか必要を感じる環境にある。親族が海外で居住するなり、働いている、といったケースは、ますます身近になってきている。

一方日本国内の在留外国人数は2005年に2百万人を突破し、そのうち80万2千人は永住者となっている。日本においても、外国人へのアンケートによると(ひらがなタイムズ2001年)、およそ4分の3が出身国の国籍を維持する複国籍を望んでいる。

この様に複国籍の要望はますます身近になっており、増加の一方を辿っている。

日本は、自己の志望により外国の国籍を取得する形では国民に複国籍を認めていない。また、1985年1月1日以降に諸般の事情により複国籍となった人に、一方的な国籍選択を課している(一方的なという意味は、日本国では法的に有効だが、他方の国では多くの場合、日本の様な選択制度を持っていないので、全く効力を持たないということ)。

 しかし、複国籍には個人にとってメリットが多く、社会の国際化にも有益である。是非とも、日本も複国籍を認めてもらいたい、あるいは今ある複国籍を維持させて頂きたい。

・ここ2〜3年の動き

2006年、昨年の衆議院選挙で複国籍の容認に積極的であった民主党の衆議院議員の方々が、軒並み落選の憂き目にあってしまい、停滞感が漂う中、引き続き請願活動は行われていた。今までの流れもあって、与党自民党においてもプロジェクトチームが発足された。これは喜ばしい事ではあった。このプロジェクトチームには河野法務副大臣が座長を務めていた。この年は、民主党の参議院議員、千葉議員と高山議員が質疑に立たれ、河野副大臣との質疑応答が成された。しかし、自民党は従来の慎重姿勢を崩すことはなかった。

2007年に入り、この停滞に光が差してきた。民主党からは岩國衆議院議員が質疑に立たれた。この様に民主党は継続して請願支援をして下さっていた。河野副大臣も、ご自身のブログで複国籍の是非に関して広く意見を求まれていた。この年は国籍選択を迫られる人が1万人に登るとあって、与党サイドにもなんとかしなくてはとの意図があったと思われる。

この年、参議院選挙において民主党が大躍進を遂げ、先の外国人政策プロジェクトチームのリーダー江田さつき議員が参議院議長に就任した。これは明るい材料であった。

法務省も観測気球を上げる様になってきた。朝日新聞などに「平和時は、国籍はあいまいなままでいい」などと述べている。今までは「検討」の一点張りだったのと比べると、意図的に議論を誘発させたい様であるとも受け止められる。

2008年になると民主党も参議院の優勢を盾に、外国人政策に関して攻勢に乗り出している。その一つが、外国人参政権問題である。今まで店晒しになっていた問題が、今動こうとしている。これは複国籍容認の請願においても追い風である。

こういった雰囲気を受け、在欧の日本人親睦団体も複国籍容認に賛同を始めている。やっと時期がやってきたと受け止める人が多い。スイスなどにおいても、もともとこれは在外日本人にとって切実であり、いいことだと認識する人が多かったので、スイスの全ての日本人親睦団体から賛同と支援を受けるに至った。一方在欧の在外日本公館は、この請願に対して中立の立場を明確にしつつある。これは、複国籍容認の問題が、極めて重要な政治課題になりつつあるという認識が深まっていることに相違ないであろう。

・複国籍に関する国内外の関心度、メディアの扱い

複国籍の容認は日本国内のメディアとしては扱い難い問題なのかも知れない。何故なら、複国籍の問題は海外で暮らす日本人や、国際結婚家族において深刻なのであって、日本国内においてはさほど社会問題になりにくい側面がある。日本に居住する外国人には切実な問題であろうが、外国人は政治の場面にその声を届ける術がないし、日本に居住する外国人の割合は日本人人口の2%程度である。

報道として目を向けたいトピックは他にいくらでもあり、日本に住む日本人としては、そちらの方により関心が深い。複国籍は外国と関連する事なので、そういう外国との関連を持たない多くの日本人にはぴんと来ない、あるいは未知である故の漠然とした抵抗感の様なものが存在してるのではないだろうか。

国籍選択の問題にしても、現状法務省が催告を出さず、この法制度を形骸化させているので、生来的な複国籍者にとっての実害は最小限度となっている。政府が該当者の日本国籍を喪失させるなどの、著しい人権侵害を行わない限り、メディアの扱える時事問題になりにくい。国民も至って無関心である。しかし、いくら最小限度とはいえ、実際に日本国籍を放棄した人が今までに2万人以上いるのも事実である。この人達は、国籍選択をしなければ日本国籍を維持出来たのだ。

また、外国人というと、北朝鮮を例に出して、北朝鮮の様な国の人間が日本国民になる可能性を作るのは認められない、などの主張がインターネットなどで見受けられる。北朝鮮という国家が日本にとって脅威である、という主張も検討を要する様に思えるが、国家は国民を虐げる事もあり、そうやって地球上には何千万人もの難民が今も存在している、という現実がある。例えば独裁国家から避難した人に対して、お前も独裁国家の一員だ、と一概に決めつける訳にはいかないだろう。

敵対する国家に関する問題は、国籍制度という枠組みに関わるものではなく、むしろ外交的政治課題の枠内で処理すべきであろう。また、その国家出身の国民に対する帰化は、帰化審査の場面で個々に対処すべき性質の問題だ。複国籍者は関係する国家間の紛争を望まないし、むしろ平和的な絆の構築に役立ち、紛争を抑止する働きがあるのだ。

特定の国家を想定した実害が全く排除しきれるかという指摘もあるだろうが、行きすぎた否定はむしろ紛争を誘発する要因にもなりかねない。国内にいるその外国人を差別し、孤立させるよりは、社会が一員として平等に扱う多文化主義に立脚した方が、よほど社会の利益や安定に寄与するだろう。また、目を北米や中南米、ヨーロッパ、オセアニア、一部のアジア諸国、インドなど広範に向ければ、日本国民にとってメリットが多い。

欧米の日本語情報誌などにおいては、複国籍の容認に関心が高い。過去にも請願署名を取り扱った情報誌が各国に存在している。これは、海外で生活する日本人や、国際結婚家族にとって、国籍問題が切実であるからに他ならない。

日本に居住する日本人は当然国民として扱われ、行政などの場面においても丁重に扱われる。外国人との比較においては、優遇される訳である。では、海外に居住する日本人はどうかというと、当然外国人であって、様々な制約を受けることになる。当該国民よりは優遇されない扱いを受けている。

国際結婚から生まれた子供が複数の国の出自を抱え、成長する。そして日本に居住しようとした場合、日本国籍の有無によって大変違った扱いを受ける場面に遭遇する。日本国籍があれば、日本到着後すぐにアパートなど借りることが出来る。日本国籍がないと、10軒アパートを探して、1軒みつかればいい方だ。就職などにおいても様々な制約を受ける。

そうした現実があって、実際に様々な苦労を重ねているので、当然複国籍についても関心が高いのであろう。ジュネーブ日本クラブの元会長が言っていたが、複国籍の容認は、在外日本人にとって、いいことと受け止めらるのだ。

なお、海外に居住するのは自分の意志であるから、不便も折り込みの内なのでは、という指摘もある。確かに不便性の覚悟は必要であり、円滑な海外生活のためにも、あらかじめの覚悟を持って出国することが望ましい。

しかし、居住国家で果たす日本国籍の役割は、外国人としての証明だけであり、本来の国籍の利便性は眠ったままなのだ。言い換えると、日本国籍の利便性は日本でしか役に立たない。であれば、将来に日本に居住することもあり得るのであるから、これをそのまま眠らせておいてもらいたい、と考えるのは自然な事ではないだろうか。

また、日本から仕事のために外国で居住する人の中には、そうせざるを得ない状況があってという事も多い。例えば、ある職種では海外での実務経験が必要あるいは極めて有利になる場面があるし、就職した会社が海外に支社を作り、そこに勤務させられているうちに、生活基盤が海外に出来てしまった、などのケースがある。

さらに顕著なのが、移民である。移民は生活の貧困と、それを国内で解消出来ない国家の政策によるものであり、多くの人にとって移民は、それを余儀なくされての事である。国際結婚においても、様々な事情があって外国に居住を余儀なくされるケースも多い。複国籍として生まれた子供にとっては、これは全く自己の意志に関与していない。

・海外日本人親睦団体の動き

在外日本人の複国籍容認に対する関心が高まるにつれて、海外日本人親睦団体においても昨今これを求める動きが高まりつつある。

2007年にはオランダ・アムステルダムにてオランダ在住の女性達の会「オランダかもめの会」主催の国籍勉強会が開かれ、複国籍の容認を求める声が訴えられた。2008年には東スイスネットワークからIST請願の会が招待され、この請願に関する説明を行っている。スイスにおいてはスイスにある全ての日本人親睦団体より、複国籍の容認を求める請願について賛同と協力を頂いた。団体名は次の通り。
チューリッヒ日本人会 チューリッヒ日本同好会 バーゼル日本人会
ルツェルン日本人会 ベルン日本人会 ジュネーブ日本クラブ
サークル・ジャポン(ローザンヌ) ルガーノ日本人会・カメリア
東スイスネットワーク

この様な動きはスイスから周辺国に広がりつつある。イタリアでは日本語情報誌Comevaが請願署名に協力する記事を掲載され、ドイツにおいても情報誌Guten Tagが記事掲載を予定している。フランスにおいては、かつてより動きがあるが、在仏日本人会の会長ご自身が積極的に働きかけの努力をされている。いずれ、在仏日本人会としての要望としてこれが認められる運びであり、ヨーロッパへの広がりは益々進むものと思われる。

・日本国籍を喪失した人へ、届出による国籍取得を

スイス在住の画家横井照子さん(1924生まれ)。日本に横井照子ひなげし美術館があり、今年2軒目の横井照子美術館が富士市に会館予定。日本、スイス、ドイツ、アメリカで活躍する国際的画家。横井照子の知名度は日本よりスイスの方が高いというほど、スイスでの画家としての地位を確立している。彼女がスイス国籍を取得したのは、スイス在住も30年を迎える1991年で、周囲のスイス人から勧められた。世界が複国籍を認める動きにあり、スイスも複国籍を認めた。スイス国籍があれば、展覧会の出展や政府関係からの絵の買い上げにも有利である、との事だった。周囲のスイス人としては親切からの申出であった。ところが、スイス国籍の取得を進めている最中に日本大使館に確認したところ、日本国籍を喪失することがわかったが、その時点では手遅れだった。

世界で活躍する人には、それを支える人も多い。親切で居住国の国籍取得を助ける人も存在する。それが生活にとって大変有利であるからだ。彼女のスイス国籍取得にはその様な背景がある。しかし、日本にも美術館があるなど、日本との関係も密接である。この様な人から日本国籍を喪失させることは、日本の国際化にとってもマイナスといえる。また、日本の貴重な人材を日本から喪失させ、遠いものとさせている。

横井さんは80歳を越えてなお健在であるが、帰国の際外国人として入国する事に抵抗を感じている。また外国人としての入国には時として2時間もかかるなど、苦痛であり、年齢もあって日本に帰国する事が嫌になりつつあるという。昨今の外国人に対する指紋採取にも抵抗を感じている。

横井さんに止まらず、パリ在住の画家佐々木真紀さんも同じ境遇にあるという。仕事上どうしてもフランス国籍が必要になりフランス国籍を取得した。その当時は周囲に結婚によってフランス国籍を与えられていた日本人も多くいて、自分が日本国籍を喪失するとは理解していなかったという。佐々木さんによれば、自分が日本国籍を放棄したのではなく、日本が佐々木さんから国籍を奪ったのだという。日本国籍を失ったため、親の遺産相続に際して大変な苦労をしたそうだ。

現在こうした方々が日本国籍を再取得するには、日本在住が条件になる。しかし日本との関係が密接な者に、敢て日本在住の条件を課す事は厳しすぎるのではなかろうか。複国籍の容認と共に、この様な方々の届出による国籍再取得の道が望まれる。



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