衆議院法務委員会(平成十六年十一月十七日)における藤田一枝議員の重国籍に関する質疑部分の要旨

文責 高川 憲之
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm
議事録参照


1.藤田一枝議員の質疑における発言の要旨は以下の通り

重国籍容認を求める動きの紹介
 重国籍は請願も続いており、民主党においてもプロジェクトチームの中で検討を進めているテーマとなっている。重国籍に関する請願の願意、趣旨は以下の通りで、国際化の進行に伴って、あるいは過去の歴史的経緯の中で生じる避けがたい、そしてまた当事者にとっては大変切実な問題だ。
・国籍選択制度の廃止・国籍留保届の廃止・成人重国籍の容認・日本国籍への復活を望む者への復権の権利・在日外国人への重国籍の容認・在外日本人への重国籍の容認。

政府の国際的動向を注視する必要があるという見解に対して
 国際的動向を注視し、国民的議論が深まる必要があるとの事だが、自分の親の血、あるいは受け継いだ文化、そうしたものを、どちらか一方を選択しなければならない、そういう悩み苦しみと心情とを聞けば、早急に改めるべきは当然。
 国際的な動向を注視するというが、世界的な傾向として二重国籍を認める流れが大きくなっている。日本だけではなくて、どこの国でも問題が顕在化し、そして重国籍を認めるという答えを出してきている。具体的にヨーロッパの国々は容認をしている国がふえているし、オーストラリアであるとか、あるいはアジアにおいてもフィリピンだとかインドだ。本気で検討するべき時期に来ている。

政府の国民的議論が深まる必要があるという見解に対して
 本当に国民的議論を深めるために一歩前へ出ていくのかということが今問われている。請願もそういう意味で出てきているし、国会の中で質問をしている。法務省の資料にも、積極的に認めてほしいという意見とかメールとかというものが相当数寄せられているとある。国民的議論として、かなり関心が深まっていろいろな声が上がってきている。問われているのは、一歩踏み出していくためにいろいろな検討の機会をつくっていくことだ。
 各国の国籍法の違いから、重国籍というのは必然的に生じてきてしまう。それを日本だけが独自の道を歩もうということは、遅かれ早かれできなくなる。歴代の大臣は、関心は示されるが前に行っていない。それは許されないことだ。

重国籍がもたらす弊害について
 国家の側から見た弊害、兵役の義務であるとか、忠誠心だとか、外交保護権というものが挙げられている。兵役については、既に戦争を放棄した日本ではちょっと考えられない。欧州でも、一つの国で兵役をクリアすればもう一つの国では免除される。外交保護権の問題も、AB両国内で問題が生じた場合は、いずれの国も外交保護権は主張できないというのが一般的ルールになっている。
 国家の側から見た弊害というのは国際的な協定やその他の協力の中で解決をしていくということが本筋。国籍、これは国家の構成員であるという枠組みの問題で、国籍イコール忠誠心というものではない。法務省では重国籍で何らかの問題が生じた事例を把握していないと述べている。よって、二重国籍を排除しなければいけない立法政策上の差し迫った理由があるとは到底思えない。

政府は検討に踏み出すべき
 よその国はみんな一生懸命努力をして、できるだけ問題が起きないように整理をしてきている。ところが政府は放置したままだ。国会で取り上げられる重要な問題が言いっ放しで終わってしまうのは問題だ。もう政府は踏み出さなきゃいけない。

国籍選択制度を見直すべき
 国籍法第十四条の国籍選択というのは、八五年に日本が女子差別撤廃条約を批准するに当たって、父系優先主義から父母両系主義に改正した際に、重国籍者の増加の可能性があるということで、そこに端を発した。しかし、重国籍の解消というのは、個人の自発的意思に全面的にゆだねられるべき問題だ。国籍の異なる父と母の間に生まれた子が二つの国籍を持つことは、二つの言語、歴史、文化、生活習慣の中で成長する彼らの思考や生活の当然の反映であり、人間としての自然の姿である。重国籍の選択は、本人がその生活や教育を通じて、父または母の国を自然に、かつ自己の意思で選ぶことが最も望ましい。それには、国籍離脱の自由を完全に保障した現行法(当時の改正前の同法十条)で十分であり、国籍選択制度を新設する必要はない。当時この様な反対意見が強かった。
 現在においても国籍の選択について、お知らせという通知は必ずしも全部に行っているわけではなく、徹底できているものではない。ある種の不公平が生じてしまっている。例えば、通知を受け、大変な精神的なプレッシャーがかかり、選択の手続をとってしまって非常に後悔をしている人がいる一方、そういう手続に全然遭遇しない、そういう場面に直面しないという人もいる。
 また、実態的なところで法改正の前と後では全然扱いが違ってきている。国籍選択制度はいろいろな問題を抱えており、努力を重ねてもそれは完全なものにはならない。制度の見直しが必要だ

法と現実とにギャップがある
 国籍唯一の原則というが、この日本においても実際に重国籍者が四十万人いる。既に法律の規定とこの実態とに大きなギャップが生じてしまっている。重国籍者はこれからもふえていく、しかし、法律の方は頑として動かない。今後もギャップが広がっていくというのは誰でもわかる。このギャップが非常に大きくなって矛盾が広がってしまうようになる前に、手を打つべきだ。一国の国籍法で重国籍を完全に解消しようということ自体に無理がある。(民事局長うなずく)

重国籍者は増加していく
 外国で出生した場合は十二条で国籍を留保すれば一定期間重国籍になる。十三条の国籍離脱というものも、帰化のための外国国籍離脱は及ばない。選択制度というのも、法務大臣の催告というのは一度も行使をされていない。国際結婚が増加すれば増加するほど、海外在住者が増加すればするほどふえていく。法務省も、重国籍者は増加するとの見解でいる。しかしながら動いていっていない。そこがやはり問題だ。本気で検討の機会をつくるべきじゃないか。

重国籍がもたらすメリットについて
当事者にとってのメリットも多いし、大局的なメリットもある。政府のいう国家の側から見た弊害というのは、唯一絶対のものではない。各国みんなそれを乗り越えてきている。それよりも勝るメリットがあり、ポジティブな部分を積極的に見ていくということが必要だ。

例1、人的資源の確保)
 かつて国連が、日本も九五年の生産年齢人口水準というものを今後五十年間維持していくためには毎年六十万人の移民が必要だという予測を出したことがあった。その後現実に、我が国の合計特殊出生率というのは一・二九まで落ち込んでしまった、そういう深刻な事態になった。今日の状況を考えると、人的資源の確保と少子化対策が大変重要な課題になる。
 重国籍は日本に活力をもたらす効果がある。グローバル化の中で、海外で生活をする、あるいは仕事をする日本人は大変増加をしている。そして、その子供たちもいる。二つの文化と二つの言語を理解する、場合によっては三つかもしれないが、多言語を理解する優秀な人材がたくさんいる。
 アメリカ企業等が実施をする科学コンテストのファイナリストに二重文化経験者が多いということが言われている。国籍唯一の原則によって日本との関係というものを遠いものにしてしまうということは、決して得策ではない。二重国籍を認めれば、優秀な人材を遠いものにしない。人材のリクルートということも容易になる。投資意欲、起業意欲等を高めことになる。
 現実に国籍選択によって、海外で活躍をされている日本の方が日本国籍を喪失し、実際に大変不便になってしまっている。これは一人、二人の話じゃない。国籍唯一の原則によって、人的資源の確保という部分を狭めてしまっている。デメリットを生んでいる。

例2、国際的信頼)
 FTA(自由貿易協定)関連の交渉というものがいろいろ進行している。物だけではなくて人の移動ということが問題になってきている。さまざまな問題がそこで惹起する可能性がある。働きに来る人が日本人と結婚するかもしれない。そうなれば、当然子供もできる。あるいは帰化など、いろいろ可能性出てくる。そのときに、国際スタンダードということは大変大切だ。それは信頼を得るためにも必要なことだ。

例3,戦争抑止、外交上の影響力)
 複数の国に愛国心がある人がふえると、戦争とか紛争を抑止する働きがある。これはアメリカでよく論じられている。二国間、多国間のきずなを深めることにつながって、外交上も影響力を発揮する効果がある。そういう人材も活用していくことは日本の国益にもつながっていく

メリットもあるがデメリットもあるという答弁について
 デメリットのところにとらわれていたのでは前へ進まない(政府は終始、メリットもあればデメリットもあると繰り返すのみ)。デメリットは、各国みんな考えていた。国籍唯一の原則というのはヨーロッパの国だってあった。しかし、国際情勢の変化、社会情勢の変化の中でそれを変えてきている。日本がいつまでも、それを後ろから、うちは違いますよという話にはならない。

国籍は人権、その尊重が必要
 国籍は世界人権宣言第十五条によって人権として位置づけられてきている。基本的人権を保障する基準として重要な意義を有している。人権という観点から、重国籍者本人の意思を最大限尊重するということは何よりも必要なことだ。

質疑の終わりに
 さきの改正から二十年経過した。国際的な動向、これも大きく動いた。国民的議論もさまざまな角度で機が熟しつつある、そういうときに来ている。これだけ、大体問題は出尽くした。ぜひ前に進める検討をしていただきたい。

2.南野国務大臣の答弁における発言の要旨は以下の通り

大臣としてどう考えているかについて
 周りの者も理解を持ってあげなければいけない課題だ。私個人として、気持ちとしては十分に関心がある。大臣として検討機関を設ける事については、当面予定はない。

デメリットもある
 外交保護権が衝突し、国際的摩擦が生じるおそれがある。身分関係に混乱が生じるおそれがある。

終始答弁に使われた発言
 国民的議論が深まる必要があると考えている。国際的な動向を注視したい。議論を深めながら、方向を探していってみたい。いろいろ議論されなければいけない。様子を検討してみたい。国籍のあり方は国のあり方とも関連する重要な問題である。

答弁の終わりに
 国民的議論がさらに深まっていくということを期待し、私も一生懸命取り組んでいきたいと思う。

3.法務省民事局房村局長の答弁における発言の要旨は以下の通り

政府はどう考えているか
 重国籍をめぐる問題というのは、国のあり方とも関連する重要な問題であり、国民的議論をさらに深める必要がある。

世界的な容認の傾向について
 重国籍について、兵役、国に対する忠誠義務、外交保護権、こういうようなものが指摘をされている。欧米先進諸国において重国籍を容認する方向に動いているが、それなりの対応策がとられているからであって、種々の問題が生ずるということも事実。重国籍は国のあり方にも関係することでもあるし、種々の問題もあるので、慎重に検討していく必要はある。

実際に存在する重国籍者について
 40万人と推定される重国籍者は、現行国籍法が当然の前提としている、法律の予想した方々である。これだけ国際化が進んでいる時代なので、今後とも重国籍の方々の人数はふえていくだろう。

何故政府は動こうとしないのかについて
 国籍のあり方について見直しをしないというわけではない。国際的に重国籍を容認する国が相当ふえている。国内的にもいろいろな要望が出ている。これらを踏まえて国のあり方として、十分議論した上で決めるべきだ。

法務省は何をしてきたのかについて
 法務省は諸外国の動向あるいは国内でのいろいろな議論、請願とか要望とかも含めて把握し、それについての検討はしているが、現在法務省内において、直ちに現在の国籍法を変えるということまで進んでいない。

国籍選択制度の周知について
 法務省として国籍選択制度の国民への周知努力をしている。この重国籍として把握できた人とは、届け書によって把握できた人であり、重国籍者すべてに送付をしているということではない。
 重国籍者を厳格に把握しようとすると、重国籍者名簿といったようなものを国の責任でつくらざるを得なくなる。そのような管理の仕方をするということは、国が重国籍者を差別的に扱っているという誤解を招きかねない。この国籍選択制度を創設した当初から、そういった漏れなく把握するような仕組みはつくらないとしている。不公平との指摘はそのとおりと思う。そういったことも含め、国籍選択の結果による影響などもふまえて、検討しなければならない課題だろう。

その他の指摘点と繰り返された答弁
 重国籍のメリットも当然考えられる。国籍は人権問題であり、当事者の意志を最大限尊重すべきとの指摘はそのとおりと思うが、同時に国籍のあり方というのは、繰り返すように、国のあり方とも密接に関連する事柄であり、そういったものの調和が重要ではないか。

4.富田政務官の答弁の要旨
(問題は何も動いていないという点について)

 大臣政務官として法務省の方で重国籍を考える人たちから陳情を受けて、実際に当局も同席している。法務委員会でパリで一時間半ほど、重国籍を考える人たちの意見を聞いた。重国籍問題については、今後関係機関の意見を聞き、各党十分協議をしていきたいと話した。
 各党で問題意識を受けて、随分議員間の意識は変わってきているのではないか。法務当局の方に検討機関がないからといって問題が動かないというふうには思えない。質問とか各党の協議で十分問題は動いていくのではないか。


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