要旨作成にあたって
今回の松野議員の質疑は、重国籍容認を求める運動にとって大変意義深いものであった。是非とも議事録自体を一読してもらいたいが、大変分量が多い。そこで、この要旨をまとめ、関心ある方々への参考としてもらえればと考えた。
今回の松野議員の質疑は、ご自分が重国籍を容認すべきだという立場を最初から明確にされてのものであった。また、重国籍を容認した場合のメリットは、デメリットを越えてはるかに大きいと、国際社会の潮流を見据えた上で主張されたのは、大変意義深い。
質疑において、法務省が指摘する重国籍容認による弊害(忠誠の衝突、外交保護権の衝突、重婚発生)が、現存する重国籍者に関して問題となったことはないこと、重国籍容認国においても問題となったことはないことが明確になり、これらが弊害に当たらない事(重国籍否定の原因消滅)が証明された。
現存する重国籍者は法務省把握において昭和60年以降、新たに40万人が存在し、その数は年々増加の一途を辿っている。これは出生届等の報告により判明する限りの数で、法務省は積極的な重国籍者の捜索を行っていない。
法務省は重国籍者の国籍選択について、当事者の自発的な意志に基づいて行われるべきとの態度で、法務大臣の催告による選択強制あるいは国籍剥奪の事例は全くない事が明らかになった。
法務省が日本の国籍を選択した者について、一方の国籍を放棄したかを外国に問い合わせることはなく、外国籍を放棄していない者の数を把握もしていない。民事局長の言では、法務省は届け出をした者が外国籍離脱をするものと、ただ信頼している。これらは、法規そのものが形骸化していることを示していて興味深い。にも関わらず、昭和60年以降、この制度によって約2万人が日本国籍を喪失しているのは大変残念な事である。
この様な事実が存在しながら、昭和60年以前に重国籍であった者は、事実上重国籍が容認されているなど、現行法規は不平等を国民に強いているものであり、これも重国籍を容認すべき一つの要因である事が指摘されている。
また、日本国籍を失った日本人が、故国である日本に帰国する際、大変な不便を味わっていること、両親が急病の時など、ビザが間に合わないなど重国籍が認められていれば、こんな不便な思いをしないで済む事が指摘されていてる。これらはやむなく日本国籍を失った人々の切なる気持ちだ。
他国への帰化においても、欧米では自国籍を喪失しない。先進国G8で必ず自国籍を喪失するのは日本だけである事が法務省自らによって報告されている。重国籍を容認する国々が相当数にあがっている事は松野議員の指摘通りだとし、政府は重国籍が世界の潮流であることを認めた。
総括で松野議員は、重国籍者は日本の国益にもなる点を指摘している。日本人の人口を国籍選択などで減らさない方がいいし、重国籍者は日本と外国の貴重な橋渡しをする人材であるとの主張である。
一方法務大臣は、この問題は参議院での首相の答弁を真似て、国民的議論を深める必要があるとの立場に止まった。しかし、人口動向や国際交流の活発化等を考えて、重要な課題と受け止めている、という点は評価される。松野議員の結びの通り、是非具体的な検討を法務省内で進め、この取り組みを進めてもらいたいものである。
松野議員は今回の質疑で次の点を浮き彫りにされた。これは大変素晴らしい功績で、深く感謝したい。
- 日本の国際化に伴って、重国籍者は必然的に増え続けているし、増え続ける。
- 指摘される重国籍容認の弊害は現実的に問題とならず、重国籍否定の理由は存在しない。
- 現行の国籍法は、事実上重国籍を容認する者を作っており、不平等を生んでいる。
- 国籍選択制度は形骸化している。
- やむなく国籍を放棄した日本人を苦しめている。
- 先進国で重国籍を容認していないのは日本だけである。
- 重国籍容認は欧米では当たり前で、世界的にも容認が潮流となっている。
- 重国籍容認は、国民にとってメリットが多く、国益ともなる。
松野議員の立場
基本的には二重国籍を容認すべき
二重国籍の問題が広く関心を持たれ始めていると認識
二重国籍を容認した場合のメリット、デメリット、双方比較をすれば、メリットの方がはるかに大きい
質疑
質問(松野議員)どういう場面で二重国籍が発生をするのか。頻度、考えられる多さの順で指摘いただきたい。
答弁(房村法務省民事局長)日本人と血統主義をとっている国の外国人の間に生まれた子供、日本人の親を持ち、生地主義の国で生まれた子供、外国人の父からの認知、養子縁組、婚姻によってなる場合。
質問(松野議員)重国籍者数を把握しているか。累積ではどのくらいと把握しているか。
答弁(房村法務省民事局長)把握している範囲では次第にふえてきている。
昭和60年当時は年間約1万人程度、平成4年ごろには2万人程度、平成14年では約3万3千人を超えている。昭和60年から平成14年までを単純に合計すると、約40万人
質問(松野議員)重国籍者を積極的に捜索をして、選択の通知などをしているのか。
答弁(房村法務省民事局長)届け書等から判明する限りにおいて把握をしているが、それ以上積極的に捜索はしていない。
質問(松野議員)重国籍を容認すると、どのような問題あるいは弊害が発生するのか。
答弁(房村法務省民事局長)二つの国に対する忠誠が衝突をする、外交保護権が衝突をする、重婚というような関係が生じやすくなる。
質問(松野議員)その様な弊害が現に発生をして、トラブったというようなことがあるのか。
答弁(房村法務省民事局長)具体的に重国籍で何らかの問題が生じたという事例は把握していない。
答弁に対する反論(松野議員)重国籍の容認はG8を含め、世界各国かなりたくさんあるが、そこでも重国籍を容認したことによるトラブルというのは現実にはほとんど発生をしていない。
●忠誠義務が衝突するということで、具体的には兵役の問題が出てくるかと思うが、そもそも日本の場合、憲法九条の関係で戦争放棄をうたっているわけで、徴兵制もなく、この兵役の問題というのはまず日本では問題にならない。
●諸外国についても調べてみたが、いわゆる先進国では、徴兵制というのは非常に少なくなってきている。兵役の問題では、まず弊害としては当たらない。
●外交保護権をどうするかというような問題も、基本的には入国した際のパスポートの国籍の関係で処理すればいいことだし、場合によっては外交上の処理で、これは十分トラブル発生することなく処理できる。
●重国籍で、身分上の混乱ということで、重婚が発生するんじゃないかという指摘がだが、現実には重国籍を採用している国で重婚が頻発をして問題になったというような報告はない。抽象的には考えられるけれども、現実にはほとんど問題になっていない。
むしろ制度自体に問題がある。今の国籍法は昭和60年1月1日に新しく施行されているわけだが、その時点でもう既に重国籍者になっていた人というのは、現在でも重国籍者として容認をされている。例えば、ペルーの元の大統領フジモリ氏は重国籍者として現在でも日本にて、そのまま認められている。
質問(松野議員)そういうような方(重国籍容認者)は、どの程度いるのか。この様な事実上の重国籍容認は法施行以降の人と比較して不平等だし、重国籍を容認すべき一つの要因だ。
答弁(房村法務省民事局長)数は把握していない。
質問(松野議員)国籍法の15条により、現実に法務大臣の催告をしたというような実例はあるか。
答弁(房村法務省民事局長)これは相当慎重に行うべきで、現在まで法務大臣の催告をしたことはない。
質問(松野議員)どういうような形で事実上選択を求めているのか。
答弁(房村法務省民事局長)自発的な意思に基づいての選択が望ましいと考えている。制度一般の周知に努めている。
質問(松野議員)昭和60年から、4万1千名ぐらい選択をしていると聞いているが、その内訳はどうか。
答弁(房村法務省民事局長)約2万人が日本国籍を取得し、約半分の2万人が外国国籍を取得している。
質問(松野議員)日本から見れば、選択をしたとわかるが、。その人が外国籍放棄しているかどうか、外国に問い合わせ、調査などしているのか。
答弁(房村法務省民事局長)外国への問い合わせまでは行っていない。
質問(松野議員)では実際の所はわからないと言うことか。
答弁(房村法務省民事局長)虚偽の届け出をするとも思えないので、それを信頼している。
質問(松野議員)やむなく外国の国籍をとってしまい、日本国籍を失った人達を中心にして、重国籍を認めてほしいというような要請、陳情にどう対処しているか。
答弁(房村法務省民事局長)国籍は一つ、が基本的な考え方だということを説明している
質問(松野議員)この様な人が、両親が急病だということで日本に入国する様な場合は、ビザの申請が間に合わない。何らかの便宜・便益を図るとことはできるのか
答弁(増田法務省入国管理局長)短期滞在査証で日本に来てから、日本人の配偶者等への在留資格の変更を申請すれば、認めることが可能だ。
答弁に対する反論(松野議員)根本的に重国籍を認めておれば、そう煩わしい手間暇をかけなくても対処できる。
質問(松野議員)諸外国において欧米では重国籍を容認する方向と理解しているが、どうか。
答弁(房村法務省民事局長)ヨーロッパあるいはアメリカにおいては、重国籍を比較的認める方向になってきている。例えばG8の参加国では、日本とドイツを除いて、外国への帰化により当然にはその国の国籍を喪失しないとしている。
欧州評議会の加盟国の間では、1997年のヨーロッパ国籍条約にいて、出生や婚姻により当然に重国籍となった場合にはこれを容認しなければならない、こういう規定が設けられていて、この条約は既に2000年3月1日から発効している。そういう意味では、重国籍を容認する国々が相当数に上っているというのは指摘のとおりだ。
コメント(松野議員)世界の潮流は重国籍容認で、政府も同じ認識をしている事になる。
質問(松野議員)日本への帰化者数はどれくらいか。元日本人の帰化に対して特別な待遇はあるか。
答弁(房村法務省民事局長)帰化者数は平成15年で約1万7千6百人。
元日本人の帰化は、国籍法の8条で、住所条件、能力条件、生計条件を緩和して、容易に帰化が認められるように配慮されている。
質問(松野議員)日本に帰化すれば、外国の国籍を喪失しなければならない。しかし、他国の例はどうか。
答弁(房村法務省民事局長)自己の志望で外国の国籍を取得したときに、その自国籍を当然に喪失するかどうかという点について、アメリカは自動的には喪失しない。そのほか、G8諸国では、イタリア、イギリス、カナダ、フランス、ロシア、これはいずれも当然には喪失しない。ドイツについては、喪失をする。ただし、あらかじめ国籍保有の申請をして許可証を得たときは喪失しない、そういう扱いになっている。
コメント(松野議員)帰化についても、世界の潮流は、帰化したからといって従前の国籍はなくならない。帰化による重国籍も容認している。
質問(松野議員)国籍法12条にある国籍留保の届け出を廃止すべき、という指摘があるがどうか。
答弁(房村法務省民事局長)どの範囲が日本人としての国籍を持っているかということを明確にするためには意義がある。出生届をする場合には、当然あわせて留保届ができる。それほど酷な要求をしているわけではない。
答弁に対する反論(松野議員)日本人の親から出生届が出れば、その子は日本人だ。それに加えて国籍留保の届け出をしないと日本人ではなくなるというのは、いかがなものか。
松野議員の総括発言:重国籍を容認してもさほど大きな弊害というのは現実にはない。
逆に重国籍者を誕生させるということで大きな便益が発生する。
- 日本の人口は2006年をピークに減少する。できるだけ日本人が減らない方がいい。
- 重国籍者の人は日本と外国の貴重な橋渡しになる。
- 文化、社会、政治の場面で大変貴重な橋渡しをする、それぞれの国の人材となる。
野沢大臣には、具体的な検討を是非法務省内で進め、具体的な取り組みを進めて頂きたい。
野沢国務大臣所見:今後ともに、指摘の点を踏まえながら国際的な動向等を注視するとともに、国民的議論を深める必要がある。今後の日本人の人口動向あるいは国際交流の活発化等を考えて、重要な課題と受けとめている。
引用元 http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm