国籍選択届けについての
サジェスチョン


日本人の国際結婚によって生まれた子供たちや、国際結婚をした日本人女性、アメリカなどの、自国で生まれた子供に等しく国籍を賦与する国で生まれた、日本人を親に持つ子供たちは、日本と他の国の国籍を持つ重国籍者となる場合があります。こういう人達の数は大変多く、ジャーナリストの柳原さんの指摘によれば、百万人弱にもなる試算もあるとの事です。現に、当サイトの「重国籍容認」の電子署名に協力して頂いている多くの方に、こういう方々がおられます。

この方々のかなりの数に上る方が、日本国籍と外国籍のどちらかの選択を迫られる、日本の国籍選択制度に困惑し、どう判断すべきか悩んでいる事がわかってきました。

無論、世界でも希なる「国籍選択制度」などというものが存在するから、この様な問題が生じるのであって、だからこそ、きちっと日本は重国籍を容認しなければならないのですが、現実に国籍選択義務に直面している方々にとっては、今、どう対処すべきかが最重要問題でしょう。そこで、「IST請願の会」として、一つのサジェスチョンを発表する事としました。なお、これはあくまでサジェスチョンであって、最終判断は当人が下すものです。当会のサジェスチョンに従って発生した、いかなる損害や不利益についても当会は責任を負えませんので、ご理解下さい。

当会では、重国籍の維持を望む方のため、以下のサジェスチョンを行います。


1.

1985年1月1日以前に生まれた人で、既にその日、重国籍の状態にあった人は、22才になると、自動的に日本がその人達を「日本国籍を選択したものとみなす」ので、国籍選択届けは出さなくていい。
国籍法附則 (昭和59年5月25日 法律第45号) 第三条

確かに、国籍の選択をする義務はありますが、選択をしなければ国が勝手に「日本国籍を選択したものとみなす」のですから、現実に何ら問題はありません。要は、これ以前に生まれた人々(平成14年に18才になるか、それ以上の方[ただし1月1日生まれの人は17才以上])は、二重国籍の維持を事実上認められているのです。この付則は、国籍法改正以前に認められていた重国籍者においても、あわよくば国籍選択の踏み絵をさせて、重国籍者を減らそうという国の姑息な意図によるものです。

2.

1以外の方は、日本の国籍を選択する旨の、国籍選択届けをなるべく早く提出する。出来れば当事者の親が、当事者が15才になる前に、法定代理人として日本国籍を選択する旨の国籍選択届けを提出しておく。

日本の国籍を選択するとどうなるかというと、一方の国籍を放棄する努力義務が生じます。(第十六条1)また、当該国籍者が当該国の公的な機関に重要な役職としてつくと、法務大臣が日本国籍の喪失宣告を行うことが出来るようになります。(第十六条2)
国籍を放棄する努力に期限はなく、罰則もありませんから、死ぬまで国籍を放棄する努力をすればいいということになります。よって、事実上重国籍を死ぬまで維持することも可能となります。第十六条2の方は問題で、例えばアメリカの国会議員や大統領となれば、日本の法務大臣による、国籍の喪失宣告が出来るという解釈を可能とします。重国籍を維持しようとした場合、外国の政府や公共機関において、立身出世しようとする夢とは両立できない事となります。残念ながら、おそらくこのあたりが現状では限界でしょう。

親が当事者の国籍選択届けを出しておくというのは、何らかの不測の事態が起きた時でも、当事者が成人となった時に抗弁できる余地を残しておくというものです。当事者が、「あれは親が勝手にやった」と主張すれば、これらの手続きの再申請にも道が開けると考えられます。


【重要注意点】

1. 国際結婚を考える会は1988年に重国籍に関する調査(対象56カ国)を行っています。この中で外国政府が、日本の国籍選択届けを一方の当事国として、どう捉えるか質問しています。幸いにも日本国籍を選択する旨の、日本の国籍選択届けについては、関知しない国が多いようです。いわば、この届けは日本でのみ用いられ、外国政府がこれにより、当事者の当該国籍の与奪を行うものではない、と考えられます。特に当該国が欧米諸国であった場合は、問題がないと考えられますが、国によっては重国籍者が他国の国籍を選択した場合、自国の国籍を喪失させる場合もあります。ルクセンブルク、タンザニア、パキスタンからはその旨の回答があったようです。この調査は既に10年以上も前であり、その間に法律が改正されている可能性もあります。世界的な傾向は、重国籍が容認される方向にありますので、この点については、当事者の関係する国に問い合わせてみる事をお勧めします。

2.

国籍選択届けの提出期限が切れても、国籍選択届けは提出できます。
国籍法第十四条によれば、「外国及び日本の国籍を有することとなった時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない」となっていますが、だからといって、その期限を過ぎたら、国籍選択届けを受付けないとも、日本国籍を剥奪するとも書いてありません。この期限は、本当の意味での提出期限ではなく、国が法務大臣名で、国籍選択を迫る「催告」を出す事の出来る、開始時限をいっています。

本当の国籍選択届けの提出期限は、法務大臣名で国籍選択を迫る「催告」を受けた後、一ヶ月以内です(第十五条3)
「催告」は法務大臣名で、書面によってなされます。よって、地方の法務局から、重国籍であることを疑う電話や文書が送りつけられたとしても、それは「催告」でも何でもなく、単なる脅しです。何故、この様な電話や文書が来るかというと、地方の法務局では、当事者が本当に重国籍者かどうかわからないのです。戸籍や住民票には、例えば両親の一方が外国人だったりして、重国籍の可能性がある事までは憶測出来ますが(国籍留保届けの記録などは、特に怪しまれるでしょう)、それには重国籍であるとの記載は一切ありません。重国籍の人は自分の戸籍謄本や、住民票を確認してみてください。どこにも重国籍者である記録など載っていないでしょう。そこで、法務局は重国籍者をあぶり出すために、怪しいと思った人間に、確認と称して脅しの電話をいれたり、催告の前段階の通知を出す訳です。法務局が重国籍者であると関知し、重国籍者がこの通知を二回無視すると、いよいよ「催告」が送りつけられるようになっています。

日本にいる場合は、「催告」を受け取ることが出来ますが、海外に住んでいたりすると、それを受け取ることが出来きません。あるいは日本での住所の知れない人は、「催告」の代わりに「官報」に載せることで済まされますから、下手をすると、知らぬ間に日本国籍を剥奪されていた、なんてこともあり得ます。よって、国籍選択届けはなるべく早く提出しておいた方がいいともいえます。

【これからの動きを考える】

ここでみてきたように、国籍選択届けを本当に出す必要のある、出生によって重国籍となった人の最年長は、平成14年現在まだ17才です。あと5年の期間がありますので、法務省も大量の通知、あるいは催告を出す必要まで迫られていないといえるでしょう。

現在まで、この催告によって日本国籍を剥奪された人はいません。それは、一人でも剥奪されれば、当然大きなニュースになりますし、同じく重国籍者でたまたま剥奪されなかった人と不公平が生じ、それも問題視されるからだといわれています。厳格に重国籍者から国籍を剥奪していく事は不可能ですですので、取り締まれば取り締まる程、不公平が生じ大きな社会矛盾を生むのです。これは法律の意図と現実とが完全に乖離していることを示しています

歌手の宇多田ヒカルは、重国籍者であることを自ら示した上で、日米の両首脳と対面しました。この様な事は今後も増え続けるでしょう。あと5年のうちに、国が日本国籍を選択したとみなす重国籍者が大量に生まれます。その後に、突然大量の国籍選択を迫る通知、あるいは催告が現実的に出せるでしょうか。それこそ大きな問題に発展するでしょう。この混乱でもし不利益を被る人が出れば、当然国家賠償問題になるでしょうし、もし国籍剥奪に際して、国に瑕疵があれば、それこそ大きな社会問題に発展します。

日本の国籍を選択する国籍選択届けを出すと、それを受理した旨の記録が戸籍に残ります。非常におかしな話しですが、その時に初めて国民としての記録に、その人が重国籍者であったか、まだ重国籍者である事が明記されます。しかしながら現行法では、具体的に一方の国籍離脱を強制される事はありません。また、現行の法律の意図が現実と乖離している以上、これの規制強化は極めて困難だといえます。


参考文献
・二重国籍(国際結婚を考える会)
・国籍のありか(もりき和美)